[A01-1: Yoshitsugu Shiro]
“Structural basis for heme detoxification by an ABC-type efflux pump in gram-positive pathogenic bacteria”
H. Nakamura, T. Hisano, Md. Mahfuzur Rahman, T. Tosha, M. Shirouzu, Y. Shiro
Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2022, 119, e2123385119
doi: 10.1073/pnas.2123385119
(ひとこと) ヘム(鉄–ポルフィリン錯体)は多くの生物体内に存在するタンパク質の活性中心として機能し、重要な生理反応に関与している。病原菌は、ヒト赤血球ヘモグロビン中のヘムを奪取し、それを鉄源として血液中で増殖する。しかし、細胞膜中の遊離ヘムは活性酸素種産生の原因となるため、病原菌はそれを細胞外に排出して解毒する機能を持つ。本論文では、大型放射光施設SPring-8を活用して、グラム陽性細菌においてヘム排出ポンプとして機能するATP-binding cassette(ABC)トランスポーターの分子構造(アポ型、ヘム結合型、ATPアナログ結合型)を明らかにした。さらに、その構造情報と生化学実験結果とを合わせて、ヘム排出の分子メカニズムを提案した。なお、プレスリリースが所属機関より出ていますので、こちらもどうぞ。
“Identifying Antibiotics Based on Structural Differences in the Conserved Allostery from Mitochondrial Heme-Copper Oxidases”
Y. Nishida, S. Yanagisawa, R. Morita, H. Shigematsu, K. Shinzawa-Itoh, H. Yuki, S. Ogasawara, K. Shimuta, T. Iwamoto, C. Nakabayashi, W. Matsumura, H. Kato, C. Gopalasingam, T. Nagao, T. Qaqorh, Y. Takahashi, S. Yamazaki, K. Kamiya, R. Harada, N. Mizuno1, H. Takahashi, Y. Akeda, M. Ohnishi, Y. Ishii1, T. Kumasaka, T. Murata, K. Muramoto, T. Tosha, Y. Shiro, T. Honma, Y. Shigeta, M. Kubo, S. Takashima, Y. Shintani
Nat. Commun., 2022, 13, 7591
doi: 10.1038/s41467-022-34771-y
なお、プレスリリースが所属機関より出ていますので、こちらもどうぞ。
“Trapping of Mono-Nitrosyl Non-Heme Intermediate of Nitric Oxide Reductase by Cryo-photolysis of Caged Nitric Oxide”
H. Takeda, K. Shimba, M. Horitani, T. Kimura, T. Nomura, M. Kubo, Y. Shiro, T. Tosha
J. Phys. Chem. B, 2023, in press
doi: 10.1021/acs.jpcb.2c05852
本研究は、堀谷 正樹(B01公募班)との領域内共同研究の成果です。
(ひとこと) ヘム鉄と非ヘム鉄を活性中心に含む一酸化窒素還元酵素は、2分子の一酸化窒素(NO)から1分子の亜酸化窒素(N2O)を産生する反応を触媒し、脱窒菌の細胞内でのNOの無毒化をおこなっている。以前の研究(Bull. Chem. Soc. Japan 93, 825-833 (2020))でこの酵素反応は2つの短寿命反応中間体を含む三段階の素反応で進むことを明らかにしている。本研究では第一の反応中間体(寿命:数百マイクロ秒)の配位構造と電子状態を、時間分解赤外吸収スペクトル法とcaged-NOの低温分解とアニーリングを組み合わせたESR法により明らかにした。その結果、第一反応中間体は非ヘム鉄に1分子のNOが配位した状態であることを明らかにした。本研究で用いた手法は、簡便な酵素反応の短寿命中間体の構造・電子状態解析に適用可能である。なお、この論文は、The Journal of Physical Chemistry B entitled “Steven G. Boxer Festschrift”に掲載される。なお、プレスリリースが所属機関より出ていますので、以下のサイトをご覧ください。
https://www.sci.u-hyogo.ac.jp/news/index.html
https://www.kobe-u.ac.jp/research_at_kobe/NEWS/news/2023_01_11_02.html
https://www.saga-u.ac.jp/koho/press/2023011128725
https://www.riken.jp/press/2023/20230111_2/index.html
[A01-4: Tomonori Tamura]
“Revisiting PFA-mediated tissue fixation chemistry: FixEL enables trapping of small molecules in the brain to visualize their distribution changes”
Hiroshi Nonaka, Takeharu Mino, Seiji Sakamoto, Jae Hoon Oh, Yu Watanabe, Mamoru Ishikawa, Akihiro Tsushima, Kazuma Amaike, Shigeki Kiyonaka, Tomonori Tamura, A. Radu Aricescu, Wataru Kakegawa, Eriko Miura, Michisuke Yuzaki, Itaru Hamachi
Chem, 2022, 9, 1-18
doi: 10.1016/j.chempr.2022.11.005
(ひとこと) 医学・生理学分野で古くから用いられる「ホルマリン組織固定」の化学的原理に着目し、それを拡張することによってマウス脳内の小分子薬剤の分布を可視化することに成功しました。分子の動きを「固定」することで、これまでよりも高い解像度で分布が解析できるようになりました。なお、プレスリリースが所属機関より出ていますので、こちらもどうぞ。
[A01公募: Takanori Kobayashi]
“The basic leucine zipper transcription factor OsbZIP83 and the glutaredoxins OsGRX6 and OsGRX9 facilitate rice iron utilization under the control of OsHRZ ubiquitin ligases”
Kobayashi T, Shinkawa H, Nagano AJ and Nishizawa NK
Plant J., 2022, in press
doi: 10.1111/tpj.15767
(ひとこと) 本論文では、鉄の利用を調節するイネのタンパク質を明らかにしました。植物にとって鉄は、生存のために必須の元素ですが、土壌中のほとんどの鉄は植物が利用できる形では存在していません。鉄を土壌中から吸収して体内を輸送し利用するために、植物はさまざまな遺伝子を必要な時に働かせるための調節を行っています。小林らは、これまでの研究でこの調節を行う重要なタンパク質である OsHRZ を発見し、このタンパク質の働きについて研究を続けてきました。今回、小林らは、OsHRZ と結合して分解され、鉄の輸送、利用を促進する機能を持つタンパク質としてOsbZIP83、OsGRX6、OsGRX9を同定しました。OsbZIP83 は bZIP 型転写因子と呼ばれるグループに属しており、鉄の体内輸送に関わる遺伝子の発現を促進する役割を担っていました。OsGRX6, OsGRX9 はグルタレドキシンと呼ばれるグループに属しており、鉄の体内利用に関連していました。
“Simultaneous enhancement of iron deficiency tolerance and iron accumulation in rice by combining the knockdown of OsHRZ ubiquitin ligases with the introduction of engineered ferric-chelate reductase”
Kobayashi T, Maeda K, Suzuki Y, Nishizawa NK
Rice, 2022, 15, 54
doi: 10.1186/s12284-022-00598-w
(ひとこと) 著者らはこれまでに、玄米中に鉄と亜鉛を多く貯め、アルカリ性不良土壌でも育つ「HRZノックダウンイネ」を創出しました。本論文では、このHRZノックダウンの遺伝子と、三価鉄を還元して溶かしやすくする酵素「Refre1/372」の遺伝子を同時に導入したイネを作製しました。このイネは、玄米中に鉄と亜鉛を多く貯めただけでなく、アルカリ性の不良土壌で既存のRefre1/372 単独導入イネやHRZノックダウンイネよりも良く生育しました。この成果は、植物の栽培地域の拡大と、ミネラル栄養に富む食糧の安定供給に貢献すると考えられます。
[A01公募: Shin-ichiro Inoue]
“A tonoplast-localized magnesium transporter is crucial for stomatal opening in Arabidopsis under high Mg2+ condition”
Inoue S, Hayashi M, Huang S, Yokosho K, Gotoh E, Ikematsu S, Okumura M, Suzuki T, Kamura T, Kinoshita T, and Ma JF
New Phytol., 2022, in press
doi: 10.1111/nph.18410
(ひとこと) 本研究では、植物が細胞内にマグネシウムを貯蔵するために重要となるマグネシウム輸送体タンパク質としてCST2を発見しました。マグネシウムは植物の生命活動に必要な必須栄養素の一つですが、根から吸収されたマグネシウムが植物細胞でどのように分配されて利用されているのか、よく分かっていませんでした。今回発見されたCST2は植物体のあらゆる細胞に発現し、細胞内の液胞と呼ばれる巨大な細胞内小器官にマグネシウムを輸送して貯蔵する働きを持っていました。この輸送体が欠損した植物は細胞質のマグネシウム濃度が適切に維持されず、正常に生育できませんでした。更に、植物はこのマグネシウム貯蔵システムを利用して気孔を開口させることも発見しました。 なお、プレスリリースが所属機関より出ていますので、こちらもどうぞ。
[A01公募: Kazuhiro Nishiyama]
“Myocardial TRPC6-mediated Zn2+ influx induces beneficial positive inotropy through β-adrenoceptors”
Sayaka Oda, Kazuhiro Nishiyama, Yuka Furumoto, Yohei Yamaguchi, Akiyuki Nishimura, Xiaokang Tang, Yuri Kato, Takuro Numaga-Tomita, Toshiyuki Kaneko, Supachoke Mangmool, Takuya Kuroda, Reishin Okubo, Makoto Sanbo, Masumi Hirabayashi, Yoji Sato, Yasuaki Nakagawa, Koichiro Kuwahara, Ryu Nagata, Gentaro Iribe, Yasuo Mori, and Motohiro Nishida
Nature Communications, 2022, 13, 6374
doi: 10.1038/s41467-022-34194-9
(ひとこと) 慢性⼼不全の患者数は社会の⾼齢化に伴い増え続けています。依然として慢性⼼不全の治療成績は悪性腫瘍と同等ないしはそれ以上に悪いことが知られています。 本研究では亜鉛イオン(Zn2+)流⼊作⽤をもつ細胞膜タンパク質 TRPC6 チャネルの活性化が、Zn2+依存的に⼼室筋のβアドレナリン受容体(βAR)の脱感作を抑制することで、⾎圧低下に対する⼼筋の代償的な収縮を増強させることを明らかにしました。 TRPC6 チャネルを介する Zn2+流⼊の活性化は、⼼不全治療薬(強⼼薬)の新たな戦略となることが期待されます。なお、プレスリリースが所属機関より出ていますので、こちらもどうぞ。
“Inhibition of TRPC6 promotes capillary arterialization during post-ischemic blood flow recovery”
Takuro Numaga-Tomita, Tsukasa Shimauchi, Yuri Kato, Kazuhiro Nishiyama, Akiyuki Nishimura, Kosuke Sakata, Hiroyuki Inada, Satomi Kita, Takahiro Iwamoto, Junichi Nabekura, Luts Birnbaumer, Yasuo Mori and Motohiro Nishida.
British journal of pharmacology, 2022, 180, 94-110
doi: 10.1111/bph.15942
“A TRPC3/6 channel inhibitor promotes arteriogenesis after hind-limb ischemia.”
Tsukasa Shimauchi, Takuro Numaga-Tomita, Yuri Kato, Hiroyuki Morimoto, Kosuke Sakata, Ryosuke Matsukane, Akiyuki Nishimura, Kazuhiro Nishiyama, Atsushi Shibuta, Yutoku Horiuchi, Hitoshi Kurose, Sang Geon Kim, Yasuteru Urano, Takashi Ohshima and Motohiro Nishida.
Cells, 2022, 11, 2041
doi: 10.3390/cells11132041
(ひとこと) 間⽋性跛⾏を伴う末梢動脈疾患の治療には、⾎管内⽪細胞の活性化による⾎管新⽣やその後の⾎管の動脈化(⾎管平滑筋細胞の成熟化)が重要であると考えられてきた。本研究では⾎管平滑筋に発現する TRPC6 チャネルの活性を阻害することで、⾎管内⽪機能に関係なく末梢循環障害を回復できることをマウスで明らかにした。⽣活習慣病や加齢により、⾎管内⽪機能が低下した末梢動脈疾患患者に対して、TRPC6 チャネルの直接的阻害が新たな治療戦略となる可能性を⽰した。なお、プレスリリースが所属機関より出ていますので、こちらもどうぞ。
[A01班友: Yasuhiko Yamamoto]
“Structures and Catalytic Activities of Complexes Between Heme and DNA”
Yasuhiko Yamamoto and Atsuya Momotake
Handbook of Chemical Biology of Nucleic Acids, 2022, 1-38
doi: 10.1007/978-981-16-1313-5_12-1
(ひとこと) 現生生物への進化の前に、原始地球上で、RNAからなる自己複製系が存在していたとする“RNAワールド”仮説が正しいとすると、ヘムの先祖と言える錯体がRNAのグアニン四重鎖に組込まれてRNAワールドを支える触媒分子として作用していた可能性がある。ヘムの先祖と言える錯体がRNAワールドの出現に一翼を担っていたかどうかを検証する研究は、生物科学の重要な研究課題である生命の起源を解明するための鍵となる。本総説では、ヘムとグアニン四重鎖の相互作用に関する私共の研究を紹介した。
