[A01-1: Yoshitsugu Shiro]
“Active Form of Quinol-dependent Nitric Oxide Reductases (qNOR) from Neisseria meningitidis is a Dimer”
Jamali MAM, Gopalasingam CC, Johnson RM, Tosha T, Muramoto K, Muench SP, Antonyuk SV, Shiro Y, Hasnain SS
IUCr J., 2020, 7, 404-415
doi: 10.1107/S2052252520003656
(ひとこと) 髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)由来の膜タンパク質で、ヘムと非ヘムの二核錯体を活性中心に含む一酸化窒素還元酵素qNOR(略称NmqNOR)は、宿主に感染した際に宿主が産生する抗菌ガス一酸化窒素NOを亜酸化窒素N2Oに変換することにより無毒化する。NmqNORは単量体と二量体として単離精製できるが、二量体の方が単量体よりも活性が高い。X線結晶構造解析により単量体の、低温電子顕微鏡解析により二量体の構造解析に成功した。今まで構造解析に成功していた緑膿菌のNOR(PacNOR)は単量体で活性があり、両NORがNO無毒化に使うプロトンの輸送経路の違いがこの活性構造の違いに反映されていると考えられる。髄膜炎菌特異的な抗菌剤の設計指針に結びつく可能性がある。
“Timing of NO Binding and Protonation in the Catalytic Reaction of Bacterial Nitric Oxide Reductase as Established by Time-Resolved Spectroscopy ”
H. Takeda, T. Kimura, T. Nomura, M. Horitani, A. Yokota, A. Matsubayashi, S. Ishii, Y. Shiro, M. Kubo, T. Tosha
Bull. Chem. Soc. Jpn., 2020, 93, 825-833
doi: 10.1246/bcsj.20200038
(ひとこと) 緑膿菌の嫌気呼吸の鍵となる酵素である「一酸化窒素還元酵素(NOR; Nitric Oxide Reductase)」はヘム鉄と非ヘム鉄の複核錯体を活性中心に有する膜結合タンパク質である。NORの酵素反応を、caged NO化合物の光分解(NOの発生)とマイクロ秒から数ミリ秒の時間領域での時分割分光解析とを組み合わせて追跡した。その結果、この酵素反応は2つの短寿命反応中間体が生成する3段階の素反応で進行する事を見いだした。第一の反応中間体(μsec)は非ヘム鉄に1分子のNOが配位した構造、第二の反応中間体はそのNOがヘム鉄に移動した配位構造である事を見いだし、今までにない新しい酵素反応機構を提案した。なお、この論文は、BCSJの優秀論文(selected paper)に選ばれました。
“NO Dynamics in Microbial Denitrification System”
Takehiko Tosha, Raika Yamagiwa, Hitomi Sawai, and Yoshitsugu Shiro
Chem. Lett., 2021, 50, 280-288
doi: 10.1246/cl.200629
(ひとこと) 脱窒は微生物の嫌気呼吸の一種で、硝酸NO3–あるいは亜硝酸NO2–を逐次的に還元し最終的には窒素N2として大気中に放出する、地球上の窒素循環の重要な生物的過程である。その過程の中で、細胞毒性の高い一酸化窒素NOの産生、NO産生酵素(亜硝酸還元酵素)からその消去酵素である一酸化窒素還元酵素NOR(鉄含有酵素)へのNOの受け渡し、NOR分子内でのNO移動、活性中心でのNO消去反応の機構の各ステップをすべて分子レベルで明らかにした。この総説は、Chem. Lett.発刊50周年記念Highlight Reviewならびに日本化学会賞受賞のaccount reviewとして発表されました。
[A01-3: Junpei Takano]
“Transport-coupled ubiquitination of the borate transporter BOR1 for its boron-dependent degradation”
Akira Yoshinari, Takuya Hosokawa, Marcel Pascal Beier, Keishi Oshima, Yuka Ogino, Chiaki Hori, Taichi E Takasuka, Yoichiro Fukao, Toru Fujiwara, and Junpei Takano
The Plant Cell, 2020, in press
doi: 10.1093/plcell/koaa020
(ひとこと) 植物の生命金属の1つであるホウ素(ホウ酸)を輸送する輸送体(トランスポーター) の一つが、輸送の過程で栄養素の量を感知し、輸送体自体の蓄積量を制御するトランスセプター (トランスポーター兼レセプター)であることを明らかにしました。植物における輸送が感知を伴うタイプのトランスセプターは世界で初めての発見です。本研究成果は、植物の持つシンプルで巧みな栄養素獲得の調節機構を発見したもので、不良土壌における作物生産や肥料投入量の削減につながると期待されます。 詳しくはこちら(大阪府立大学プレスリリース)をご覧ください。
[A01-4: Tomonori Tamura]
“Imaging and Profiling of Proteins under Oxidative Conditions in Cells and Tissues by Hydrogen-Peroxide-Responsive Labeling”
Hao Zhu, Tomonori Tamura, Alma Fujisawa, Yuki Nishikawa, Rong Cheng, Mikiko Takato, and Itaru Hamachi
J. Am. Chem. Soc., 2020, in press
doi: 10.1021/jacs.0c02547
(ひとこと) 細胞内で生じた過酸化水素に応答して活性化し、周囲のタンパク質をラベリングする蛍光プローブを開発しました。本プローブは、従来の過酸化水素プローブとは異なり細胞固定化後にもプローブ由来の蛍光が残るため、免疫染色と組み合わせたイメージング解析が可能です。また、修飾したタンパク質を質量分析によって同定することも可能であり、このプロテオミクス解析とイメージング解析の結果を統合することでより詳細な過酸化水素発生部位の同定が可能です。本論文ではこの新規プローブを用いてマクロファージ内や脳組織中の高濃度過酸化水素領域を同定することに成功しました。過酸化水素は生体内で鉄や銅と反応して極めて毒性の高いヒドロキシルラジカルを生じることから、本プローブは生命金属が触媒する酸化ストレスを研究するための強力なツールとなると期待されます。
“Organelle membrane-specific chemical labeling and dynamic imaging in living cells”
Tomonori Tamura, Alma Fujisawa, Masaki Tsuchiya, Yuying Shen, Kohjiro Nagao, Shin Kawano, Yasushi Tamura, Toshiya Endo, Masato Umeda & Itaru Hamachi
Nat. Chem. Biol. , 2020, in press
doi: 10.1038/s41589-020-00651-z
(ひとこと) 細胞内小器官(オルガネラ)膜の主要構成成分であるリン脂質(ホスファチジルコリン:PC)を選択的に蛍光標識し、細胞内での動きをリアルタイムに可視化できる新しい方法を開発しました。PCは主に小胞体やゴルジ体で生合成された後、他のオルガネラ(例えばミトコンドリア膜や形質膜)に輸送されます。こうしたPC輸送は細胞の機能や生存に重要ですが、直接観察する方法が無かったため、これまで理解が不十分でした。我々は、「オルガネラに局在する反応性試薬」と「PCの代謝的アジド化法」を組み合わせた独自のアイデアで、特定のオルガネラにあるPCを選択的に蛍光標識することに成功し、オルガネラ間PC輸送の可視化を世界で初めて実現しました。さらに、オートファジーの際に出現する膜の起源解明に本手法を適用し、小胞体膜がオートファゴソームにPCを供給する様子を生細胞内で直接観察することに初めて成功しました。この成果は、研究ツールの乏しさゆえに不明な点の多い細胞内脂質輸送機構の解明に向けた大きなブレークスルーにつながると期待されます。
日刊工業新聞(’20/9/22)および読売新聞(’20/11/20)で記事となっています。
[A01公募: Yosuke Funato]
“The oncogenic PRL protein causes acid addiction of cells by stimulating lysosomal exocytosis”
Funato Y, Yoshida A, Hirata Y, Hashizume O, Yamazaki Y, and Miki H
Dev. Cell, 2020, 55, P387-397.E8
doi: 10.1016/j.devcel.2020.08.009
(ひとこと) がん組織が正常組織と比べて酸性化していることは古くより知られている一方、なぜそのようなストレス環境下でがん細胞が増殖し続けられるのか、よくわかっておりませんでした。本論文ではがん組織で高発現するPRLにより「acid addiction(酸中毒)」と呼ばれる現象が起き、がん組織で見られる環境で最も効率的に増殖できるようになることを発見しています。この現象のさらに詳細なメカニズム解明が本領域内での研究課題となっており、「生命金属」の関与を明らかにしつつあります。 なお、プレスリリースが所属機関より出ていますので、こちらもどうぞ。
[A01公募: Takanori Kobayashi]
“Defects in the rice aconitase-encoding OsACO1 gene alter iron homeostasis”
Senoura T, Kobayashi T, An G, Nakanishi H, Nishizawa NK
Plant Mol. Biol., 2020, 104, 629-645
doi: 10.1007/s11103-020-01065-0
(ひとこと) アコニターゼはクエン酸回路の反応を触媒する酵素であるとともに、哺乳類においては鉄欠乏条件下において、IRE と呼ばれるmRNAのステム・ループ配列に結合して鉄関連遺伝子の発現を制御する転写後調節因子であることが古くから知られています。しかし、植物のアコニターゼはこのような発現制御を行わないと考えられていました。私たちは、イネのアコニターゼ遺伝子OsACO1のノックダウン変異体を調査し、このイネでは根での鉄の吸収や輸送に関与する鉄欠乏誘導性遺伝子の発現が低下し、葉への鉄の蓄積が低下することを明らかにしました。OsACO1の過剰発現イネは逆の表現型を示しました。さらに、私たちはOsACO1タンパク質がGGUGGを含むループ配列とステム配列から成るmRNAに特異的に結合することを発見しました。この成果は、植物のアコニターゼが新規の鉄センサー分子である可能性を示しています。
“Iron deficiency-inducible peptide-coding genes OsIMA1 and OsIMA2 positively regulate a major pathway of iron uptake and translocation in rice”
Kobayashi T, Nagano AJ, Nishizawa NK
J. Exp. Bot., 2021, 72, 2196-2211
doi: 10.1093/jxb/eraa546
(ひとこと) 近年シロイヌナズナで同定された鉄欠乏誘導性ペプチドIMA/FEPは、鉄の吸収に関わる鉄欠乏誘導性遺伝子の発現を促進します。私たちは、イネのIMA/FEP 遺伝子であるOsIMA1、OsIMA2 のイネにおける発現様式と機能を調査しました。OsIMA1、OsIMA2の発現はイネの根と葉で鉄欠乏により強く誘導され、既知の転写因子およびOsIMA1、OsIMA2 自身により正に制御されていました。OsIMA1 または OsIMA2 の過剰発現イネは鉄欠乏耐性を示し、種子と葉に顕著に鉄を蓄積しました。これらのイネの根では、鉄の吸収や輸送に関わる鉄欠乏誘導性遺伝子のほぼ全てが顕著に発現上昇していました。OsIMA1、OsIMA2 は根での鉄欠乏応答を増幅させる重要な制御因子であると考えられます。
“Development of a mugineic acid family phytosiderophore analog as an iron fertilizer”
Suzuki M, Urabe A, Sasaki S, Tsugawa R, Nishio S, Mukaiyama H, Murata Y, Masuda H, Aung MS, Mera A, Takeuchi M, Fukushima K, Kanaki M, Kobayashi K, Chiba Y, Shrestha BB, Nakanishi H, Watanabe T, Nakayama A, Fujino H, Kobayashi T, Tanino K, Nishizawa NK, and Namba K
Nature Communications, 2021, 12, 1558
doi: 10.1038/s41467-021-21837-6
(ひとこと) 全世界の陸地の約3分の1はアルカリ性不良土壌で占められています。この土壌では鉄分が水に溶けにくい難溶態鉄として存在するため、植物は根から鉄分を吸収できず生育不良を起こします。このため、アルカリ性不良土壌での農業生産を可能にするためには、土壌中の難溶態鉄を溶かす農業用鉄キレート剤の開発が必要でした。本論文では、イネ科植物が根から分泌する天然の鉄キレート剤「ムギネ酸」の化学構造を改良した環境調和型の鉄キレート剤「プロリンデオキシムギネ酸(PDMA)」を開発しました。さらに、細胞活性試験、アルカリ性不良土壌でのイネの栽培試験、パイロット圃場試験などを通じて、PDMAがアルカリ性不良土壌でも農作物を正常に生育させる画期的な肥料であることを実証しました。PDMAは世界の食料問題を解決する手段の一つとして今後の実用展開が期待されています。なお、プレスリリースが所属機関より出ていますので、こちらもどうぞ。
[A01公募: Shun-ichi Tanaka]
“Insertion loop-mediated folding propagation governs efficient maturation of hyperthermophilic Tk-subtilisin at high temperatures”
Uehara R., Dan N., Amesaka H., Yoshizawa T., Koga Y., Kanaya S., Takano K., Matsumura H., and Tanaka S.-i.
FEBS Letters, 2020, in press
doi: 10.1002/1873-3468.14028
(ひとこと) 我々は、超好熱性アーキアと中温性バクテリアにそれぞれ存在するサチライシン(セリンプロテアーゼ)の成熟化機構の違いから、タンパク質の分子進化と環境適応について研究しています。これまでに、超好熱性アーキア由来サチライシンに固有に存在する二つの挿入配列がカルシウム依存性フォールディング能の獲得に関与し、高温環境下での効率的な成熟化を可能にしていることを報告してきました。今回、新たに三つ目の挿入配列が、カルシウム結合によって開始されたタンパク質構造コア領域のフォールディングをN末端およびC末端領域まで効果的に伝搬する役割があり、高温環境下における成熟化に必須であることを見出しました。これまでに報告してきた二つの挿入配列に加え、三つ目の挿入配列も超好熱性アーキア由来サチライシンの多くに保存されていることから、我々はこれらの挿入配列の獲得が超好熱菌由来サチライシンに共通の高温環境適応戦略であることを提案しています。