【A02】2022年度 発表論文

[A02-1: Yoshiaki Furukawa]
“A pathological link between dysregulated copper binding in Cu/Zn-superoxide dismutase and amyotrophic lateral sclerosis”
Furukawa Y*
J Clin Biochem Nutr, 2022, 71, 73-77
doi: 10.3164/jcbn.22-42
(ひとこと) 本総説では、生体内における銅・亜鉛スーパーオキシドディスムターゼ(SOD1)への銅・亜鉛イオンの結合過程についてまとめたうえで、金属イオン結合過程における制御異常が、SOD1の関与する筋萎縮性側索硬化症(ALS)の病態を形成している可能性について述べています。また、SOD1に銅イオンを供給する銅シャペロンが、ALS治療薬を開発する上での重要なターゲットになりうることを議論しています。

“Zinc-mediated interaction of copper chaperones through their heavy-metal associated domains”
Furukawa Y*, Matsumoto K, Nakagome K, Shintani A, and Sue K
J Trace Elem Med Biol, 2023, 75, 127111
doi: 10.1016/j.jtemb.2022.127111
(ひとこと) CCSは銅・亜鉛スーパーオキシドディスムターゼ(SOD1)に銅イオンを供給する銅シャペロンで、3つのドメインからなるマルチドメイン型のタンパク質です。CCSにおいてN末端側にあるドメイン1(CCSdI)には、重金属イオンを結合するモチーフ(CxxC)が存在しますが、SOD1への銅イオン供給には関与しておらず、その役割については明らかとなっていません。本研究では、CCSdIのCxxCに亜鉛イオンが結合し、別の銅シャペロンであるHAH1と複合体を形成することを見出しました。亜鉛イオンを介したCCSdI-HAH1相互作用は比較的弱く(Kd ~ mM)、生体内での役割についてはさらなる検討が必要ですが、異なる銅シャペロンの間での相互作用が生体内での銅イオン動態を制御する可能性について提案しました。

[A02-3: Isao Hozumi]
“Exposure to a low concentration of methylmercury in neural differentiation downregulates NR4A1 expression with altered epigenetic modifications and inhibits neuronal spike activity in vitro”
Go S, Masuda H, Tsuru M, Inden M, Hozumi I, Kurita H
Toxicol Lett, 2023, 374, 68-76
doi: 10.1016/j.toxlet.2022.12.010
(ひとこと) 胎生期の低濃度のメチル水銀の曝露はエピジェネティクな機序を介して、核受容体であるNR4A1の発現を抑制し、神経細胞のスパイク活動と突起伸展を抑制することを明らかにした。

“Role of phosphate transporter PiT-2 in the pathogenesis of primary brain calcification”
Inden M, Kimura Y, Nishii K, Masaka T, Takase N, Tsutsui M, Ohuchi K, Kurita H, Hozumi I
Biochem Biophys Res Commun, 2023, 640, 21-25
doi: 10.1016/j.bbrc.2022.11.106
(ひとこと) 特発性基底核石灰化症におけるSLC20A2変異による機能異常は、優性阻害効果よりハプロ不全による細胞内へのリン酸取り込み能の低下に起因することを示した。

“Living with primary brain calcification with PDGFB variants: A qualitative study.”
Takeuchi T, Aoyagi H, Kuwako Y, Hozumi I
PLos One, 2022, 17(10), e0275227
doi: 10.1371/journal.pone.0275227
(ひとこと) 特発性基底核石灰化症の原因遺伝子の一つであるPDGFBに変異を持つ患者の持つ特性を質的研究により明らかにした。PDGFB変異患者はSLC20A2変異患者と同じように不安感、社会的疎外感を抱いているが、SLC20A2変異患者より生活上の困難さ、特に頭痛に関する悩みを抱えながらの生活していることが明らかとなった。

“Seronegative neuromyelitis optica spectrum disorder in primary familial brain calcification with PDGFB variant.”
Inden M, Kurita H, Hozumi I
eNeurologicalSci, 2022, 27, 100406
doi:
(ひとこと) 特発性基底核石灰化症の原因遺伝子の一つであるPDGFBに変異を持つ患者で、AQP-4抗体が陰性であるneuromyelitis opticaの合併例を報告した。両者の詳細な関連例は不明であるが、今後、同様の症例の積み重ねが病態解明に重要と考えられる。

“Stem Cells From Human Exfoliated Deciduous Teeth-Conditioned Medium (SHED-CM) is a Promising Treatment for Amyotrophic Lateral Sclerosis”
Inden M, Kurita H, Hozumi I
Front Pharmacol, 2022, 13, 805379
doi: 10.3389/fphar.2022.805379
(ひとこと) 筋萎縮性側索硬化症(ALS)は根本的な治療法がまだ見い出されていない疾患である。我々はヒト乳歯歯髄幹細胞培養上清 (SHED-CM)がALS患者から作製したiPS細胞由来の運動ニューロンを用いて、ALS患者の治療に有効性、有望性が高いことを明らかにした。

“Molecular Imaging of Labile Heme in Living Cells Using a Small Molecule Fluorescent Probe”
Kawai K, Hirayama T, Imai H, Murakami T, Inden M, Hozumi I, Nagasawa H
J Am Chem Soc, 2022, 13, 805379
doi: 10.1021/jacs.1c08485
本研究は、平山 祐(B01公募班)との領域内共同研究の成果です。
(ひとこと) 生細胞において不安定なヘムを検出できるプローブH-FluNoxを開発した。このプローブは、細胞内小器官に特異的な2価鉄に対するプローブと合わせ、その高感度や特異性から、今後、生細胞を用いた神経変性疾患の病態解明に大いに役立つものと考えれる。

“PDGF-BB is involved in phosphate regulation via the phosphate transporters in human neuroblastoma SH-SY5Y cells”
Takase N, Inden M, Murayama Y, Mishima A, Kurita H, Hozumi I
Biochem Biophys Res Commun, 2022, 593,93-100
doi: 10.1016/j.bbrc.2022.01.045
(ひとこと) 特発性基底核石灰化症の原因遺伝子の一つであるPDGFBがcodeするPDGF-BBは、リン酸トランスポーターのPiT-1が細胞膜に移動する作用をAkt系を介して増大させ、リン酸輸送機能を促進することを明らかにした。

“Characteristics and therapeutic potential of sodium-dependent phosphate cotransporters in relation to idiopathic basal ganglia calcification”
Inden M, Kurita H, Hozumi I
J Pharmacol Sci, 2022, 148, 152-155
doi: 10.1016/j.jphs.2021.11.004
(ひとこと) 特発性基底核石灰化症におけるリン酸代謝異常の病態について解説し、その治療への展望について論述した。

[A02公募: Yasushi Kawaguchi]
“Redundant and Specific Roles of A-Type Lamins and Lamin B Receptor in Herpes Simplex Virus 1 Infection”
Takeshima K, Maruzuru Y, Koyanagi N, Kato A, Kawaguchi Y
J. Virol. , 2022, 24, e01429-22
doi: 10.1128/jvi.01429-22
(ひとこと) 単純ヘルペスウイルス(HSV)のカプシドは核内で形成され、生物学上極めて珍しい「小胞媒介性核外輸送」と呼ばれる機構によって核膜を通過し細胞質へ輸送される。本研究では核膜の裏打ちタンパク質lamin A/Cの単独欠損によって、HSV-1ウイルス増殖、および小胞媒介性核外輸送の効率が上昇することを明らかにした。さらに、核内膜タンパク質LBR欠損細胞において、lamin A/Cの欠損により、小胞媒介性核外輸送の効率は上昇せず、宿主クロマチンの局在が著しく変化することを観察した。以上の結果は、Lamin A/C、および宿主クロマチンがHSV-1小胞媒介性核外輸送に影響を与えることを示唆した。また、負電荷を持つDNAと正電荷を持つヒストンタンパク質の凝集体であるクロマチンの構造は金属イオンの影響を受けるとされている。本研究から、HSV-1感染時の宿主クロマチンの局在、および小胞媒介性核外輸送の効率に金属イオンが関与しうると考えられる。

[A02公募: Kotoko Arisawa]
“Role of selenoprotein P expression in the function of pancreatic β cells: Prevention of ferroptosis-like cell death and stress-induced nascent granule degradation”
Nanako Kitabayashi, Shohei Nakao, Yuichiro Mita, Kotoko Arisawa, Takayuki Hoshi, Takashi Toyama, Kiyo-Aki Ishii, Toshinari Takamura, Noriko Noguchi, Yoshiro Saito
Free Radic. Biol. Med., 2022, 183, 89-103
doi: 10.1016/j.freeradbiomed.2022.03.009
(ひとこと) 必須微量元素セレンを含むセレノプロテインP(SeP)はセレンの運搬を担うタンパク質であり、細胞内セレンの恒常性と抗酸化能を制御している。本研究では、膵β細胞モデルMIN6細胞のSeP発現を低下させた結果、細胞内の抗酸化セレンタンパク質が低下し、フェロトーシスが誘導されることを明らかにした。さらに、SePの低下に伴い、インスリン前駆体が分解されることを見出した。このことから、膵β細胞において発現するSePは、フェロトーシスを抑制し、インスリンの産生・分泌を維持する役割を担うことが示唆された。 なお、プレスリリースが所属機関より出ていますので、こちらもどうぞ。

“Effects of the Interplay between Selenocystine and Methylmercury on Their Cytotoxicity and Glucose-Driven Insulin Secretion from Mouse Insulinoma Cells”
Daichi Chida, Takashi Toyama, Takanori Chiba, Takayuki Kaneko, Kotoko Arisawa, Yoshiro Saito
BPB Reports, 2022, 5 (4), 74-79
doi: 10.1248/bpbreports.5.4_74
(ひとこと) 過剰なセレノプロテインPは膵β細胞にセレンを過剰供給することでインスリン分泌を阻害し、糖尿病の増悪に関わることが知られている。一方、メチル水銀はセレンと共有結合してお互いの毒性を打ち消し合うことが知られる。そこで、低濃度のメチル水銀はセレンの糖尿病増悪作用を打ち消す作用が期待され、本研究に着手した。結果として、メチル水銀とセレンは確かにお互いの毒性を打ち消したが、意外なことに、セレンにより低下したインスリン分泌作用はメチル水銀で回復が一部しかしなかった。このことは、メチル水銀−セレン結合体は化学的に安定で毒性は低いが、別の点から生理機能へ悪影響を示す可能性を示唆している。

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