【A03】2022年度 発表論文

[A03-1: Taiho Kambe]
“Early secretory pathway-resident Zn transporter proteins contribute to cellular sphingolipid metabolism through activation of sphingomyelin phosphodiesterase 1”
Ueda S, Manabe Y, Kubo N, Morino N, Yuasa H, Shiotsu M, Tsuji T, Sugawara T, Kambe T
Am J Physiol Cell Physiol, 2022, 322, in press
doi: 10.1152/ajpcell.00020.2022
(ひとこと) リソソームにおいてスフィンゴミエリンをセラミドとホスホコリンに分解する酸性スフィンゴミエリナーゼ(SMPD1)の変異は脂質代謝異常症ニーマン・ピック病A型B型を引き起こします。したがって、SMPD1はスフィンゴミエリン代謝の鍵分子となります。本研究では、SMPD1の活性中心に配位する亜鉛は、初期分泌経路に局在する亜鉛トランスポーター複合体であるZNT5-ZNT6ヘテロ二量体(ZNT5-6)とZNT7ホモ二量体(ZNT7)によって供給される必要があることを明示しました。ニーマン・ピック病患者の細胞では、脂質の蓄積物と考えられる異常な膜構造体が観察されますが、ZNT5-6とZNT7を欠損した細胞でも同様の構造体が蓄積され、スフィンゴミエリンとセラミドの存在比率も変化していました。したがって、両ZNT複合体が輸送した亜鉛はスフィンゴミエリン代謝に極めて重要な役割を果たしています。これまでSMPD1は酵素活性発現の場であるリソソームで亜鉛を獲得すると考えられてきましたが、本研究成果から、その説が間違いであることがわかりました。

“Sophisticated expression responses of ZNT1 and MT in response to changes in the expression of ZIPs”
Nagamatsu S, Nishito Y, Yuasa H, Yamamoto N, Komori T, Suzuki T, Yasui H, Kambe T
Scientific Reports, 2022, 12, 7334
doi: 10.1038/s41598-022-10925-2
(ひとこと) 動物細胞の亜鉛恒常性維持には、ZIPとZNTの協調的な発現調節が重要であると考えられていますが、これを実験的に示した報告はありません。本研究では、Flp-In T-Rexシステムを組み込んだMDCK細胞を用いて、ZIPをDox依存的に発現可能な細胞株を樹立し、ZIPの発現の増加に応じてZNT1の発現が増加し、逆に増加したZIPの発現を減少させるとZNT1の発現も減少することを示し、ZIPとZNTの協調的な発現変動が実際に起こっていることを明らかにしました。さらにMDCK細胞を極性分化させて消化管上皮細胞のモデルとして使用して、アピカル膜のZIP4の発現の増加に応じてバソラテラル膜のZNT1の発現が増加することも示しています。この結果は、消化管上皮細胞ではアピカル側からバソラテラル側へ、亜鉛を厳密かつ効率的にベクトリアル輸送できることを示しており、亜鉛吸収機構の理解に重要な成果だと考えています。

“Zinc transport via ZNT5-6 and ZNT7 is critical for cell surface glycosylphosphatidylinositol-anchored protein expression”
Wagatsuma T, Shimotsuma K, Sogo A, Sato R, Kubo N, Ueda S, Uchida Y, Kinoshita M, Kambe T
J. Biol. Chem., 2022, 298, in press
doi: 10.1016/j.jbc.2022.10201
本研究は、内田康雄(B01公募班)との領域内共同研究の成果です。
(ひとこと) 本論文では、小胞体における重要なタンパク質修飾であるGPIアンカー付加の過程において、初期分泌経路に局在する亜鉛トランスポーター複合体であるZNT5-ZNT6ヘテロ二量体(ZNT5-6)とZNT7ホモ二量体(ZNT7)が必須の役割を果たすことを明らかにしました。ZNT5-6とZNT7を欠損させた培養細胞の解析に加え、両複合体を欠損させたメダカを使用した解析も実施し、両複合体のGPIアンカータンパク質発現における重要性を示しました。両複合体を欠損した細胞ではGPIアンカー型のタンパク質の発現が著しく減少することを SWATH法を用いた定量プロテオミクスによって明確に示しています。GPIアンカーによるタンパク質の修飾は真核生物で広く保存された翻訳後修飾で、ZNT5-6、ZNT7も幅広く保存されているため、この亜鉛を介したGPIアンカータンパク質発現制御は生物にとって重要な制御機構だと考えています。

[A03-2: Koichiro Ishimori]
“Metal sensing by a glycine-histidine repeat sequence regulates the heme degradation activity of PM0042 from Pasteurella multocida”
Uchida, T, Ota, K, Tatsumi, A, Takeuchi, S and Ishimori, K
Inorg. Chem., 2022, 61, 13543-13553
doi: 10.1021/acs.inorgchem.2c02172
(ひとこと) 犬猫の口腔内常在菌であるパスツレラ菌由来のタンパク質であるPM0042がヘム分解酵素であり、その酵素活性が鉄イオンが存在すると上昇するという鉄イオンによる正の制御機構が存在することを見出しました。

“Converting cytochrome c into a DyP-like metalloenzyme”
Omura, I, Ishimori, K, and Uchida, T
Dalton Trans., 2022, 51, 12641-12649
doi: 10.1039/D2DT02137D
(ひとこと) 呼吸鎖に存在する電子伝達タンパク質シトクロムcに改変を加えることで、中性pHにおいて、色素分解酵素DyPより高い酵素活性をもつタンパク質の作成に成功しました。シトクロムcは活性中心であるヘムとタンパク質と共有結合を形成しているため、安定性に優れた色素分解酵素として期待できます。

“Heme binding to cold shock protein D, CspD, from Vibrio cholerae”
Nam, D, Motegi, W, Ishimori, K, and Uchida, T
Biochem. Biophys. Res. Commun., 2022, 624, 151-156
doi: 10.1016/j.bbrc.2022.07.074
(ひとこと) Cold shock protein (Csp)はRNAシャペロンで、微生物においてCspA-Dの4種類が存在することが知られています。このうち、CspDにはヘム結合モチーフが存在し、そこにヘムが結合すると、核酸との結合が阻害されることから、ヘムが低温ショック時の転写に関与していることを見出しました。

“Regulation of the expression of the nickel uptake system in Vibrio cholerae by iron and heme via ferric uptake regulator (Fur)”
Muranishi, K, Ishimori, K, and Uchida, T
J. Inorg. Biochem., 2022, 228, 111713
doi: 10.1016/j.jinorgbio.2022.111713
(ひとこと) コレラ菌では、ニッケルの取り込みに関与するnikオペロンは、鉄応答性の転写制御因子であるFurを介して鉄により転写が調節されている。ヘムが鉄と競合的に結合し、DNAから乖離させることから、nikオペロンがニッケルの取り込みだけでなくヘムの取り込みにも関与していることを見出しました。

[A03-3: Hitomi Fujishiro]
“Spatial localization of cadmium and metallothionein in the kidneys of mice at the early phase of cadmium accumulation”
Fujishiro H, Sumino M, Sumi D, Umemoto H, Tsuneyama K, Matsukawa T, Yokoyama K, and Himeno S
J. Toxicol. Sci., 2022, 47, 507-517
doi: 10.2131/jts.47.507
(ひとこと) カドミウム(Cd)慢性曝露によって腎臓にCdが蓄積される。しかし、腎臓のCd分布についてはほとんど報告がなかった。そこで、飲料水からカドミウムを1、2、4ヶ月間曝露したマウスの腎臓におけるカドミウムとMTの分布の用量および時間依存的変化を明らかにするために、LA-ICP-MSによるカドミウムの分布とCd結合タンパクであるメタロチオネインの分布を検討した。CdとMTはともに腎皮質において特徴的な不均質な分布パターンを示した。CdとMTが皮質表面付近に集積していることから、Cdは表層ネフロンに集積していることが示唆された。MTの分布は近位尿細管で顕著であり、近位尿細管間でもMTの免疫染色には明らかな差が見られた。Cdの元素イメージングとMTの免疫染色の組み合わせは、特にCd蓄積の初期段階において、腎臓の特徴的なCd分布を明らかにするのに有効な戦略であることが示唆された。

[A03-4: Michio Suzuki]
“Evolution of epidermal growth factor (EGF)-like and zona pellucida domains containing shell matrix proteins in mollusks”
Shimizu K, Takeuchi T, Negishi L, Kurumizaka H, Kuriyama I, Endo K, and Suzuki M
Molecular Biology and Evolution, 2022, 39, 7, msac148
doi: 10.1093/molbev/msac148
(ひとこと) アコヤガイの炭酸カルシウムの貝殻に含まれるEGFとZPドメインを有するタンパク質の発現解析と分子進化に関する論文です。

“Evolution of nacre- and prisms-related shell matrix proteins in the pen shell, Atrina pectinata”
Shimizu K, Negishi L, Ito T, Touma S, Matsumoto T, Awaji M, Kurumizaka H, Yoshitake K, Kinoshita S, Asakawa S, and Suzuki M
Comparative Biochemistry and Physiology Part D: Genomics and Proteomics, 2022, 44, 101025
doi: 10.1016/j.cbd.2022.101025
(ひとこと)タイラギの炭酸カルシウムの貝殻に含まれるタンパク質の網羅的解析と分子進化に関する論文です。

“Structural and functional analyses of chitinolytic enzymes in the nacreous layer of Pinctada fucata”
Zhu L, Shimizu K, Kintsu H, Negishi L, Zheng Z, Kurumizaka H, Sakuda S, Kuriyama I, Atsumi T, Maeyama K, Nagai K, Kawabata M, Kohtsuka H, Miura T, Oka Y, Ifuku S, Nagata K, and Suzuki M
Biochemical Engineering Journal, 2023, 191, 108780
doi: 10.1016/j.bej.2022.108780
(ひとこと) 炭酸カルシウムを主成分とするアコヤガイ貝殻の真珠層にキチン分解酵素が働いていることを示した論文です。

“Carbonic anhydrase activity identified in the powdered nacreous layer of Pinctada fucata”
Namikawa Y, Moriyasu K, Yasumoto K, Katsumata S, and Suzuki M
Process Biochemistry, 2023, 128, 22-29
doi: 10.1016/j.procbio.2023.02.007
(ひとこと) 炭酸カルシウムを主成分とする真珠層に含まれる炭酸脱水酵素の活性に関する論文です。

[A03公募: Ayako Fukunaka]
“Zinc and iron dynamics in human islet amyloid polypeptide-induced diabetes mouse model”
Fukunaka A*, Shimura M*, Ichinose T, Pereye OB, Nakagawa Y, Tamura Y, Mizutani W, Inoue T, Inoue T, Tanaka Y, Sato T, Saitoh T, Fukada T, Nishida Y, Miyatsuka T, Shirakawa J, Watada H, Matsuyama S, Fujitani Y*
Sci. Rep., 2023, 13, 3484
doi: 10.1038/s41598-023-30498-y
(ひとこと) SPring-8放射光を用いた顕微鏡システム(走査型蛍光X線顕微鏡:SXFM)を用いて、ヒト型糖尿病モデルマウス(hIAPP-Tg)のインスリン産生細胞(膵β細胞)を対象に、元素イメージングを行いました。糖尿病発症前から亜鉛が激減、進行に従って鉄減少が加わることを見出しました。糖尿病症状が進行した週齢では、両元素共に減少状態に至り、同時期にミトコンドリア機能障害が観察されました。糖尿病は予備軍も含めると、日本人の5-6人に1人が罹患している国民病です。本研究は、その進行解明と発症予防に向けた研究に今後貢献すると考えます。なお、プレスリリースが所属機関より出ていますので、こちらもどうぞ。

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