【第1回 夏の合宿 実施報告】(石森 浩一郎)
1年順延となった第1回「夏の合宿」は、緊急事態宣言下、対面形式での開催が危ぶまれましたが、全参加者に参加直前にコロナウイルス感染の陰性証明を取っていただき、会場では前後少なくとも1 mの間隔をあけての着席、朝夕の食事は部屋で個食、昼食もテーブルあたり一席で黙食、宿泊もツインルームのシングルユースなど可能な限りの感染防止対策を取って、ルスツリゾートホテル&コンベンションにて、特別講演の講師の先生方を含め、33名の方にご参加いただきました。当初は80名以上の方々が参加を希望されており、所属機関等から出張制限などでキャンセルされた方が多数おられたことは大変残念ですが、当初予定していなかった特別講演やポスター発表のオンライン参加を設定することで、ほぼ当初の予定通りの参加人数となりました。
初日の9月4日(土)は若手会企画として、京都大の田村先生と東京大の鈴木先生にお世話いただき、52件のポスター発表によるポスターセッションが開催されました。ポスター数に比べ現地での発表者が少なかったため、対面のポスターセッションではやや寂しい印象でしたが、逆に一つ一つのポスターを丁寧に聞くことができ、情報交換の場としては機能したように思います。後半はオンラインセッションとなり、現地参加できなかった方もポスター発表やその議論に加わっていただくことができました。夕食後は特別講演として東京大学の藤原先生と、特別講演(基礎科学講座)として東京大学理学系研究科の平田先生の2件の特別講演が対面、オンライン配信併用のハイブリッド形式で実施されました。藤原先生のご講演ではまさに「想定外の連続」のお話で、植物の栄養感知と応答機構の奥深さを実感でき、一方、平田先生のご講演では最先端質量分析法の開発の現場にいるような臨場感あふれる内容で、いずれも参加者から多くの質問が寄せられ、通常の講演会等では終了時間が気になるところでしたが、合宿の特徴を生かして、質疑応答も十分な時間を取ることができました。
2日目の9月5日(日)は、朝から連携研究報告として、獨協医科大の小川先生より「神経変性疾患後脳の生命金属科学」、放医研の武田先生より「生命金属動態の量子ビーム戦略の連携研究」、名古屋大の本岡先生により「タルク・アスベスト暴露は卵巣における鉄代謝異常と発がん」、千葉大学の田中先生(オンライン参加)により「LA-ICP-MSを用いた微量元素分析」が行われ、それぞれ活発な質疑応答のため、予定時間を大幅に超過してしまい、最後に予定されていた京都薬大の石原先生からの報告は午後になりました。この日、午前最後の講演は、特別講演(基礎科学講座)として、東京大学理学系研究科の高橋先生から、放射光を用いたX線顕微鏡についてお話しいただき、生命金属科学とは縁遠い印象の「分子地球化学」がさまざまな点でつながり、生命金属科学の異なった側面を認識できました。昼食後は、午前中の続きの連携研究の経過報告をしていただき、京都薬大の石原先生より「ダウン症モデルマウスと生命金属の関連性に関する連携研究」、東京大の鈴木先生より「NMRを用いたバイオミネラル蛋白質の産生ドメインの構造機能解析」、兵庫県立大の澤井先生より「生命金属科学の統合的研究による創薬を目指して」、自然科学研究機構の青野先生より「センサータンパク質の構造解析に関する連携研究」が報告され、午前中に引き続き、活発な質疑応答が繰り広げられました。休憩後、特別講演(基礎科学講座)として筑波大の重田先生、慶應大の渡邊先生から「蛋白質の構造機能―相関に対する計算科学的研究」と題して、計算科学的アプローチの基礎理論から応用まで実例を挙げて、計算科学に何を期待できるのか、わかりやすく説明いただきました。その後、予定よりも短くなった休憩時間(「羊蹄パノラマテラス」へのロープウェイに間に合わず申し訳ありませんでした)と夕食時間の後は研究交流会ということで、多くの参加者がポスター会場に集まり、三密を避けながらも久しぶりでの対面での情報交換を楽しむことができました。
3日目の9月6日(月)は朝から慶応大の古川先生、京都大の神戸先生、大阪府大の高野先生のお世話により「生命金属のこれまで」というセッションで、兵庫県立大の城先生、東京大の津本先生、千葉大の小椋先生(オンライン参加)により、それぞれの立場から「生物無機化学のこれまで」、「蛋白質科学のこれまで」、「金属分析・毒性学のこれまで」と題して話題提供いただきました。「生命金属科学」の生い立ちの話に引き続き、「生命金属のこれから」というセッションでは、多くの参加者からそれぞれの研究分野での将来展望や今後の展開等の熱い議論が繰り広げられ、「生命金属科学」に対するさまざまな思いと期待が共有できたように思います。最後になりましたが、緊急事態宣言のもと、わざわざ現地までお越しいただいた招待講演者及び参加者の方々、オンライン参加を余儀なくされた方々、いずれも興味深いご発表や活発な討論にご参加いただき、御礼申し上げます。「夏の合宿」での議論が領域関係者の研究の進展と「生命金属科学」の確立に貢献できれば幸いです。
終了後、「夏の合宿」アンケートに41名の方々から回答がありましたが、全体として対面で参加いただいた方の満足度は高く、やはり今後もできるだけこのような対面形式での開催について検討できればと思います。



「夏の合宿」若手企画報告(A01-4 田村・京都大学)
令和3年9月4日から6日にかけて、新学術領域「生命金属科学」ルスツ夏合宿が開催され、初日には本領域若手会主催で対面でのショートプレゼンテーションとポスター発表が予定されていました。しかし、COVID-19感染拡大に伴い現地での参加者が減少したことを受け、対面とオンライン(Zoom)のハイブリッドポスター発表形式で本企画を実施しました。本企画は、コロナ禍において各研究者間の交流が難しい中で、領域内の研究内容を互いに情報共有するとともに、若手からシニア研究者間の連携を深めて共同研究を一層推進することを目的としました。また、若手優秀発表賞を設け、次世代を担う若手研究者の育成および研究促進を図りました。
領域内の計画班、公募班から52件のポスター発表が行われ、現地、オンラインともに非常に活発な質疑応答や意見交換がなされました。また、若手優秀発表賞には、若手研究者(学生、ポスドク、若手教員含む)から23件の応募があり、学生と非学生を分けて審査を行いました。当初は4名程度に賞を授与する予定でしたが、いずれの発表も甲乙つけ難く、領域内の若手・中堅メンバーによる厳正な審査の結果、以下の7名に優秀発表賞を授与することになりました。
藤田宏明(京大)
「鉄依存性フェロトーシスの制御機構の解明」
Chai Gopalasingam(兵庫県立大)
「Exploring native structures of nitric oxide reductase using cryoEM」
我妻拓実(京大)
「GPIアンカー型タンパク質の発現は亜鉛トランスポーターに制御される」
村西和佳(北大)
「コレラ菌の遺伝子発現調節因子Furの金属選択性とヘムによるDNA結合阻害」
Cheng Rong (京大)
「新規銅イオン応答性タンパク質修飾試薬の開発」
草野孝央(慶應義塾大)
「SodCを介したRcsリン酸リレー伝達系による大腸菌の環境ストレス応答メカニズム」
目加田祐道(慶應義塾大)
「Deinococcus属に見られるβプロペラドメインを有した新規の銅・亜鉛スーパーオキシドディスムターゼ」
受賞者には賞状と副賞を贈呈しました。

藤田宏明さん(京都大学)

Chai Gopalasingamさん(兵庫県立大学)

我妻拓実さん(京都大学)

村西和佳さん(北海道大学)

Cheng Rongさん(京都大学)

草野孝央さん(慶應義塾大学)

目加田祐道さん(慶應義塾大学)

